設立趣意

約千年前のムスリムの哲学者ファーラビが理想とした都市は,人間が快適で便利な生活を営む集合体 であったが,現在の東京に代表される都市は,人口・エネルギー・物流・金融などどれ 1 つとっても超 過密都市に変貌を遂げた.いわゆる理想都市から逸脱した状態にある.衆知のように,昨夏の東京は 10 年振りに記録を更新し,最高気温 39.5℃(大手町気象台発表)に達した.また,筆者らが観測した渋谷 駅前の街路空間における 1 人の人間に対する放射(日射および赤外放射)の到達量は約 1400W を超え, 都市環境は人間生存にとって危機的状況であることを示している.東京消防庁によれば,昨夏の熱中症 急患数は 892 人にのぼったことが,そのことを如実に裏付けている.このままでいけば,2030 年頃の 東京の最高気温は 43℃を超える(夕刻 6 時)と予想される. 

1818 年の Howard のロンドンでのヒートアイランド観測以来,ヒートアイランド(都市温暖化ともい う)は,主に欧米での長い研究の歴史がある.Meyer, Duckworth, Emonds, Chandler, Bornstein, Clark,  Oke, Landsberg などの名を挙げられる.また,我が国では,佐々倉航三,荒川秀俊,福井栄一郎,吉野 正敏,河村武,山下脩ニ,尾島俊雄,中村泰人、村上周三、齋藤武雄ら(吉野正敏の著書による)の多 くの名前を挙げることができる.研究分野も理学(気象学,都市気候学,地理学,大気環境学),工学(建 築学,機械工学,環境工学,土木工学),農学,リモートセンシング学,経済学など極めて多岐に亘って いる. 

 しかしながら,学問分野にしても,その取り組みはバラバラに行われ,統一的解釈や学問的統合・整 理などはあと回しにされてきた感は否めない.このことが,学問としての「ヒートアイランド学」の完 成を遅らせてきたように思われる.さらに,緊急を要する筈のヒートアイランド対策や技術についても, 縦割り行政のあおりを受け,バラバラに実施されてきた.緑化にしても,風の道の議論にしても,東京 ウォールの効果についても,十分な根拠や研究結果がない状況でかけ声のみが先行しているかに思える.  このような背景のもと,学問の統合および緊急を要するヒートアイランド対策および技術を検討する 場として,ここに日本ヒートアイランド学会(略称:ヒートアイランド学会、英文名称:Heat Island  Institute International;HI )の設立を提案するものである. 

 本学会は,従来の学会とは趣を異にして,1)大学・研究者(工学、理学、医学・生理学、農学など の理系および経済/法学などの文系),2)国および東京都などの自治体,3)企業(建設・土木・自 動車・空調・電力・ガス・エネルギーなど),4)個人・NPO NGO・市民団体,5)計測・監視・評 価、および6)国際連携などの6つのセクションに別け,お互いに連携をとりながらパラレルに研究・ 技術開発・導入普及などを進める組織とする. 

 また,アカデミックな側面では,若い人がヒートアイランド関連の論文を書いてもこれまでその価値 を認め掲載してくれる雑誌がほとんどない状況を勘案して,国際誌(for ex. International Journal of  Heat Island)を初めから刊行したいと考えている. 

 地球温暖化と並んで,21 世紀の大きな課題の 1 つであるヒートアイランド現象の解明・理解とその 緩和に向けて,多方面の多くの諸賢のご参画を切にお願いする次第である. 

平成 17年3月

日本ヒートアイランド学会

発起人代表         齋藤 武雄