会長からの挨拶

 このたび,第 6 代会長に就任いたしました.就任にあたり,ご挨拶申し上げます.本学会は, 2005 年7月 29 日に当時東北大学に在籍されていた齋藤武雄先生のご尽力により設立されました.ヒートアイランドという都市生活者にとって身近な環境問題でありながら,研究分野が理学(気象学,都市気候学,地理学,大気環境学),工学(建築学,土木工学,機械工学,環境工学),農学(緑化など),経済学,医学など多岐にわたっていること,またヒートアイランドに関する行政に携わる自治体や民間企業においても分野が広く役割が分散されていること,さらに一般市民に対して有益な情報が発信されないなどの問題から, その対策の取組みが進まない現状がありました. それらの課題を解決するためには,各分野の専門家・担当が互いに連携をとりながらパラレルに研究・ 技術開発・導入普及などを進めることが必要であり,その役割を果たす組織として本学会は設立されました.

 本学会の主要な取組みとして,年 1 回開催する全国大会が挙げられます.学会設立の翌年 2006 年 7 月に大阪市立大学(当時)で第 1 回全国大会を開催して以降,2023 年までに18 回の全国大会を開催してまいりました. 全国大会では, 大学や企業の研究者のみならず,自治体関係者や一般市民の方々も参加し,アットホームな中にも,ヒートアイランドをどうにか解決したいという熱意・共通認識の元で,熱心な発表・討論が行われています. また,本学会では,全国大会以外にも, 最新の研究成果の発表の場としての Web ジャーナル(学術論文集)の発行をはじめ,一般の市民の方々も参加可能なプライムセミナーや専門家に的を絞ったエキスパートセミナーの開催, この分野の参考図書となりうる 「ヒートアイランドの事典」 の出版,スマートフォンでその場の暑さや涼しさなどの感覚を入力すると画面上に視覚的に結果を表示できるアプリ「暑さマップ」の開発など,ヒートアイランドに関する研究と併せてヒートアイランド対策の普及・促進に向け,多面的かつ精力的な活動に取り組んでいます. ヒートアイランド対策の実現に向けて, ヒートアイランド現象の解明と理解,日常生活や社会・経済活動への影響評価,有効な対策の開発と社会実装,加えて環境政策への提言など, 研究者のみならず, 自治体や民間企業・市民など, 分野や立場を超えた多様な関係者と連携しながら,多岐にわたる活動を引き続き推進していきたいと考えております.

 以上, 本学会設立の趣旨や設立当時の活動,ならびに近年の活動状況について述べてきました. 地球沸騰時代において, 地球温暖化に先行してより以上の高温化が顕在化している都市のヒートアイランドによる生活影響は,熱中症リスクの増大や夏季の活動機会の損失などに代表され, 益々顕著になっています. ヒートアイランド対策を進め, 安全・安心, 健康・快適な都市空間を創出していくために,本学会が果たす役割はますます重要となっています. 会員の皆様のご協力を期待するとともに,本文を目にされた皆様には,日本ヒートアイランド学会へのご支援とご協力,また,ご入会のほど,よろしくお願いいたします.


2023 年 8 月 26 日 日本ヒートアイランド学会会長 三坂 育正